2010年12月19日日曜日

「従来型の企業宣伝から脱皮するチャンス」――花王 本間Web技術室室長

 米国では「マーケティングがやりたいならコンシューマーパッケージグッズの会社に行け!」というほど。日本では花王がその代表格として挙げられるでしょう。それに加えて、マーケティング分野で花王をさらに有名にしたのは、インターネットへの取り組みです。

 今回のインタビューでは、花王のインターネット活用のけん引者でありエバンジャリストであるWeb制作部Web技術室の室長、本間充さんにお話を伺いました。

●Webサイトの変遷

 本間さんは1994年に花王に入社という、まさにインターネット商用化の年にキャリアをスタートしました。入社後、2、3年してインターネットによるビジネスが本格化するときに担当となりました。37歳で同社のWebマスターになったのですが、役員からは本間さんの上司である部長をよく替える社員だと言われたそうです。

 というのも、本間さんはプロジェクトの説明と判断をあおぐために直接取締役と話してきました。通常の業務であれば、40代→50代→60代と、経験と知識と判断がバトンタッチされるものですが、インターネットに至っては90年代半ばからその重要性が認識されたため経験値が伝達されていません。だから、当時の50代はそれを決済する知識を持ち合わせていません。責任を負っている役員と直接対話する方が良識ある判断ができます。この大胆さが、業界において花王をインターネットに精通する会社に仕立て上げたのでしょう。

 花王でも、世の中の流れと同様に、インターネット第一世代が94年に始まり、Webサイトをつくること自体が目的化していたといいます。本間さんが配置された97年は、競合に比べて自社サイトがどうあるべきかを考えた年でした。実は翌年までは、顧客視点ではない、会社パンフレットの焼き直しのようなサイトでしたが、99年から2000年にかけて環境の変化が起こります。マイクロソフトのOS「Windows 95」とブロードバンドが普及するのです。これが、会社としての広報色を薄め、インターネットがマーケティング目線になっていくきっかけとなりました。

 2000年以降は、顧客に主眼を置いています。これまでの広報=会社としての面子から、マーケティングへのしのぎ合いの時期を経て、完全にマーケティングに変遷していきました。

 ネットイヤーグループでは、あらゆる業態の顧客の仕事を請けていますが、花王ほどのスピード感はなくても、この変遷のプロセスはほぼ同じです。パンフレットから、会社の顔としてのWeb、そしてマーケティングツールとしてのWebへの変遷です。

●CMOの必要性

 本間さんは、CMO(Chief Marketing Officer:最高マーケティング責任者)が必要であるという意見の持ち主です。しかし、この意味合いはマーケティングが重要だからCMOが必要という単純なものではありません。コンシューマーパッケージグッズの会社として、マーケティングとブランディングという似て非なるものの重要性や、インターネットがつまるところ組織論に及ぶという考えからです。

 わたしは企業のWebの作り方を大きく分けて「中央集権型」と「分散型」と呼んでいます。コーポレートカラーが強いものは中央集権型で、分散型は商品色が強いものです。例えば、コーポレートの統治権が強い会社のWebの代表例がIBMで、分散型の代表はP&Gです。後者は、商品ごとにWebが展開され、ブランディングも会社より商品がメインです。

 P&Gと同じく、花王もコンシューマーパッケージグッズの会社なので、Webにおいてもブランドごとに単発のマーケティングをすることが同社のインターネットの主流だといいます。しかし同時に、本間さんは1つ1つの商品マーケティングを重ねることと、コーポレートのブランディングの両方が重要だと考えています。Webでは、商品を知りたい人には商品を、その背景を知りたい人にはコーポレートを見せていかないといけないのです。コーポレートブランディングとしてIMC (Integrated Marketing Communication=統合的マーケティング?コミュニケーション)の必要性を感じ、それをWebで展開しています。

 そこでの最大の問題はCMOがいないことです。ブランドごとの展開をつなげるイメージを出すには、横串の機能が必要で、その役目がCMOなのです。もちろん、CMOの役割(コーポレート)は業態によって違いますが、ブランドが強くても、コーポレートブランディングが必要であることに変わりはありません。化粧品会社は商品ブランディングを重視しますが、コンシューマーパッケージグッズの会社ではコーポレートブランディングが大切だといいます。消費者にとって、化粧品は技術より美的なブランド価値のほうが高く、技術背景より情緒感を重視します。それに比べてコンシューマーパッケージグッズはブランドの陳列だけでなく会社でチェックする消費者も多いといいます。信頼性が重要、だからCMOが必要であるという意見なのです。

●代理店依存は解消できるか?

 本間さんは、インターネットの出現により企業のマーケティング業務は変わるべきだし、それには宣伝部やマーケティング部、そして広告代理店も統合したマーケティングに変わるべきだとおっしゃいます。いささか辛口ですが、わたしは、米国に比べ日本のマーケティングが遅れているのは、マスメディアの希少価値が高く、メディアレップとしてマスメディアの広告枠を代理店が所有していることにより、企業宣伝部が広告スペースだけでなく業務に関しても代理店に強く依存しているためと考えています。

 しかし、インターネットによりその構図は一変されるべきで、企業内にもマーケティング業務を遂行する専門家がいなくてはなりません。代理店への依存構造が変わらない限りこの移行が進まないのではないかとわたしは思っているのですが、本間さんは鋭い視点でこれを否定してくれました。

 本間さんによると、今、いわゆる有名宣伝部長がリタイアする時期なのです。この人たちは企業宣伝部が設立されたころに就職した方々です。いわゆる、約50年のTVの歴史=代理店の歴史を作ってきた方々です。宣伝部の予算拡大に尽力なさった方々で、これは日本のマーケティングの歴史といっても過言ではありません。この方々は、〇〇会社の△△さんというように固有名詞で呼ばれる人たちです。

 ところが、次世代の40代、50代の方々は、〇〇会社の宣伝部の方々に過ぎないという明らかな違いがあるのです。つまり、企業内のマーケティング担当の方も、マスメディア中心の仕事を相変わらずしている方から、IMCの必要性を説きながらも方法論としてはマスメディアにインターネットをとりこもうとしている人に変遷し、さらにそれが、本格的にインターネット中心のIMCを勧めようとしている人に変遷していく、というプロセスを経て、マーケティングが変わっていくことになるのではないかとおっしゃいます。

●花王のWebの現状と戦略

 花王のWebサイトでもPCサイトのアクセス数は成長率が鈍化しているようです。その中で、大切なことはアクセス数ではなく、ターゲティングユーザーにふさわしいコンテンツを出していくことです。小売店舗の例でいえば、ドラッグストアの顧客までも百貨店に呼んでしまう必要はないわけです。

 一方で、携帯への投資を徐々に高めています。2007年から取り組みを強化しているという携帯Webサイトの方針は、まずPCと同じことをやろう、PCのレベルまでWebを高めようとしていることです。携帯でのマーケティングは、まだまだ課題があります。キャリアはブラウジングの時間情報を提供してくれず、マーケティングが重要視される会社であるほど指標が必要となるために投資しにくいのです。

 花王はiPhoneのサイトも構築しました。その理由は、iPhoneのユーザーはブラウジングが目的で購買する人が多いので、販売台数=ブラウジングだと理解しているからです。この考え方は、アンドロイド携帯やスマートフォンの普及で一気に標準となるのではないでしょうか。

 ただし経験則から、PCと携帯でのマーケティングの違いを感ずるところもあります。例えば、PCのサーチエンジンキーフレーズと携帯のそれは違います。本間さんはPCのキーフレーズは装っていると表現してくれました。PCの「鍋 汚れ」に対し、携帯は「鍋の汚れを落としてください」というものです。携帯の方が生活やインサイトを想像するものが多く、せっぱつまったQ&Aやトラブルシュート型が多いのです。博報堂の調査によれば、携帯は生活コミュニケーションツールであるということですし、それが、携帯ユーザーの特性かもしれません。本間さんは、今まで企業は生活コミュニケーションに入った経験がなく、楽しみだとおっしゃいます。

 そのために、とりあえずPCと同じインフラをつくり、そこから携帯特有の改善をしていく。かなり携帯のほうが面白いことができそうな気がするというのが花王の姿勢です。

 デバイスに関して言えば、茶の間には必ずTVがあるという感覚はなくなってきています。マスマーケィングでTVを制覇すれば勝ちという時代は終わり、一方で、TVがなくならないことも認識したわたしたちは、マーケティングには、マルチデバイス、マルチコンタクトを駆使することが必要と分かりました。しかし、コンタクトポイントは増え続け、顧客はそれをスキップする権利があります。コンタクトの選択権は完全に顧客のほうに移行したのですから、自社メディアであるWebでは、情報提供やクレーム対応の必要があります。

●マーケティング指標をどう設定するか?

 今後のマーケティングには、数値目標とその計測が欠かせません。しかし、それら数値目標=KPIをどう設定するかの方針は各社バラバラです。しかも、KPIを設定し予測通りにいった、もしくは、失敗したというマルバツ式の計測しかしていないのが現状です。

 本間さんは、KPIの選択に工夫が必要だとおっしゃいます。売り上げなのかリーチ数なのか、どちらが正しいのかを論議し、その予測をしっかり立てることが必要です。予測回路が正しくなってから、アルゴリズムを設計し、成功体験を後世に残すべきです。

 そのKPIはまだ不連続な点のデータであることが多いのですが、本来は、曲面か線で計るようにすべきです。認知率はブランドであり、潜在ユーザー数をベンチマークとして、2カ月後にリピーターを計測するなど、いくつかのデータを時系列的に計っていく作業が必要です。1個目と2個目がつながらなければ、その間に何かのKPIを入れることで、不連続データを連続的にしなければいけません。

 インターネットのうまみは数値測定ができること、インターネットを経由してメジャーメントすることが必須課題です。実は、ほかのマスメディアでもWebで計測するという動きが出ています。いくつかのブランドでは、TVの投入、雑誌の掲載、店頭の訪問率などの相関関係が分かりかけているのです。

 本間さんのお話を伺っていると、明らかにマーケティングが科学になってきていることが分かります。【石黒不二代(ネットイヤーグループ)】

(ITmedia エグゼクティブ)

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